旅に行くデ!出発ゃ!作家ではなく、旅人としての開高健(かいこうたけし)の魅力を全力で伝えてみる。

    

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作家の開高健をご存知だろうか。ご存知ない?

そもそも、なんて読むの?と言われそうなので、最初に説明しておきます。

”かいこうけん”ではなくて、”かいこうたけし”と読みます。”かいたかけん”と読む人はさすがに、もういないだろうと思う。

ちなみにぼくは”かいこうけん”だと、ずーっと思っていた。

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話を戻します。

今回、紹介するのは旅人としての開高健(かいこうたけし)である。

熱心な釣師としても知られ、日本はもちろんブラジルのアマゾン川など世界中に釣行し、様々な魚を釣り上げ、『オーパ!』、『フィッシュ・オン』など釣りをテーマにした作品も多い。現在では浸透している「キャッチ・アンド・リリース(釣った魚を河に戻す)」という思想を広めたのも開高だと言われている。また食通でもあり、食と酒に関するエッセイも多数ある。

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さて、どんな人か。第一印象は人の良さそうな小太りのおっさん(失礼)。引用にあるとおり、釣り好きとしても有名で、釣り紀行写真集も出している。キャッチアンドリリースはこの人が広めたというのは記事を書いているときに知った。へぇ。なるほど。

恥ずかしながら、小説の類は読まないから詳しくない。先生の著作も、読んだことがない。いつかは読もうと思うけど、いま手を出しているジャンルで手一杯なのです。

大人になってから、読んだ小説といえば、そうだなぁ・・・印象に残っているのは紀行小説の「深夜特急」(沢木耕太郎/著、新潮文庫/刊)くらいだろうか。

ご存知だろうか?と読者に問いかけておいて、自分はご存じないのが実情。

ははは。

さて、今回紹介するのは、開高健の著作ではなくて高橋昇という方の本だ。

「旅人 開高健(かいこうたけし)」(高橋昇/著、つり人社/刊)

最初は、釣り紀行集を期待して買ったのだけど、なるほど、この本の魅力はそれがすべてではない。著者のフィルターを通した開高健という人の魅力が伝わってくる良書だ。

釣り紀行写真集「オーパ!」シリーズの取材で釣り人、開高健と寝食ともにしたときの思い出を写真とともに綴る内容。年月にして延べ443日!この本を読み終えたあとに残るのは、高橋昇という人の開高健という人に対する深い愛情、寂しさ、喪失感。

なんだかうまく表現できないけど、じんわりと温かい気持ちと言えば伝わるだろうか。いちばんの魅力はここで、この読後感を味わってもらいたいためにこの本の記事を書いている。

もちろん釣り好きの期待も叶えてくれる。冒険旅行、釣りというキーワードにピン!とくる人は間違いのない一冊になると思う。

ぼくは釣りが好きだ。海釣りもやるし、川も渓流も、餌釣りからフライフィッシングまでやる。最近は行っていないけどね・・。

芸能人のマグロ釣り!みたいな派手さがないのもいい。あれって、なんだか共感できないんですよねぇ。演出が目につきすぎて興ざめしてしまう。

最初は写真ばかりに目がいくとおもうけど、添えられた文章もなかなかのボリュームで、引きこまれるように読んでしまいます。

ほんの僅かですが、紹介します。

  1. 「いい教訓」
  2. 「萬病之薬(但シ少量ズツ服用ノ事)」

この二つをどうぞ。その後に釣行記がつづきます。



いい教訓

ある年、、アラスカのアンカレッジで黄金に輝く鷲(ワシ)のバックルを先生に差し上げたことがある。立派な物で高価でもあった。

「ホンマにエエのんか、ほなもらうデ」

金無垢だといわれて買い求めた鷲は猛々しく勇ましく、永遠に輝き続けるはずだった。

「オイ、こないだくれたあれナ、例のバックル、金無垢だと言ってたよナー」

「ええ、それはもう、無垢も無垢。ホンマモンだと店員が言ってました。で、何か?」

「いやナ、それがナ、鷲ではなく鷹になってしもうたんャ。頭のところが禿げて地金がでてきて、禿げ鷹(タカ)になったんャ」

「へっ?禿げましたか、贋物でしたか」

「悪いけどキミの頭のようになってしもうた。ほんまもんの贋物なんャ」

「いや、それは・・・すんません」

「気持ちはわかるデ。まぁ、思いだけでももらっておくヮ」

そんなふうに結果が間抜けてしまい、なにもしないほうがいいこともあるのだと、いい教訓にはなった。

萬病之薬(但シ少量ズツ服用ノ事)

「私も世界中をあちらこちら渡り歩いた、それでナ、どえらい薬を手に入れたんャ。この薬、万病に効くといういわば万能薬で、だけどナ、チョビチョビのまないかんのャ。これを差し上げます。病気になったら飲みなさい」

そんなことを話しながら外国に住む若い友人に手渡した白い封筒の表には、「萬病ノ薬(但シ少量ズツ服用ノ事)」と書かれていた。

その薬とは”現金”だった。(中略)あとになって先生にその話を訊くと、

「若くて貧乏だったころ、誰かにしてもらいたかったことをしてみただけのことャ。別にたいしたこっちゃない」

少し照れた顔をしてそう話してくれた。

 

ある旅先で、クタクタのボロンチョになって、釣り場から都会へ戻る車のなかで、

「手を出しなさい。エエから出すんャ」

そう言われて出した手のひらの上に百ドル札が二枚置かれ、

「? ?? ???・・・・」

わけがわからず不思議な顔をしていると、

「開高財団からの奨学資金ャ。好きに使いなさい。社会勉強をしなさいということャ。ただ勉強だけじゃなく奨学資金であるからして義務がある。明日、朝ごはんのとき、なんにどう使ったか報告するんャ。それだけャ。まぁ楽しんできなさい」

二百ドルを握りしめて夜の街へ繰り出した。報告の義務だなんてことはポンとはじけて消えていた。で、次の日、

「さぁ、話してもらおうか、奨学金の使い道を」

「あっ!はぁ、実はその、あまり勉強にはなりませんでした。いや、なったというべきか・・・」

「なにをごちゃごちゃと言ってんのャ」

「ですから、その、あの二百ドルを悪女買いに使ってしまったんです」

「エエやんか。なにに使ったかを訊いてるんじゃあらへん、どう使ったかを訊いているんャ」

「見てくれは良かったんです。バストはバーン、腰はドーン・キューで。ところがです。ブラを取ったらオッパイがベローン、Gパンのホックを外したら腹がボテッで、手を出したらハニーデューメロンみたいなオッパイを手のひらにドテッと乗せられて、あとはもう戦意もなにもなくして、哀れな結果です」

「そうか、いや大変だったナー、ワハハ!」

なんとか笑ってもらって報告は終わった。

 

いま、私の手元には先生の直筆の色紙の一枚もない。なにかの著作が送られてきた折に”ごぞんじ”と書かれた短冊が一枚あって、いただいたのはそれだけである。

その四文字の”ごぞんじ”のなかに、いっしょに過ごした時間のすべての意味があると思っている。色紙は一枚ももらっていないけれど、たくさんの思い出をいただいた。

それだけで充分である。

釣行記

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「きた!ヒット!」

と聞こえたがそのあとの声がない。

「小物ャ、撮らんでもエエョ」

たしかに竿先はしなっていない。そして巻き上げたリールの先には、ルアーよりちいさいかと思えるほどの小魚が一尾、しかもハリの先を口から飲み込んで、エラから出していた。

「タハッ、なんて小さいんャ!開高名人の腕前を見たやろ、ちゃんと口を通して釣ってるんャ、小物でもナ。大きくても小さくても、一尾は一尾ャ、子どもでも熟女でも、オンナはオンナなんャ」

さすがに、あまりにも小さ過ぎる魚に、敏感に反応したのが照れくさそうだった。

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「むさくるしいと魚も寄ってこん」ということらしい。

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死ねば?といわれてハイそうですかとはいかないので、必死に逃げ帰った。冷たいベーリング海の波は、小舟を飲み込みにかかる。船頭がひと言「デンジャラス」と言った。

カレイの化け物みたいな魚を釣り上げていたけど、オヒョウというらしい。おいしいのかな。

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先生が暗いベーリング海を眺めている。デカルトの”我思う、ゆえに我あり”が思い浮かぶ一枚。

「旅に行くデ、出発ゃ、シャル・ウイ・ゴー!」

と言われてみたい。こんな人と、一緒に旅したくなりますよね。

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「ノーブルや!」と思わず叫んだ。スコットランドの酒店でザ・マッカランに出会う開高先生。ダンディズムの塊(かたまり)のような人だね。

まとめ

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いやいや、また旅に出たくなってしまいます。中毒性のある本ですね、これ。

モノ好きとしても楽しめる内容です。見ていて飽きません。

エピソードも一つひとつが、かっこいい。

たとえば、銀座でいまも先生のボトルが飲み継がれているのだという。写真とともに説明されていた。

おぉ、銀座。なんて、かっこいい。ダンディズム!

そう感じてしまうぼくは、なんて単純なんだ・・・。見た目はただの中年太りのおっさんなんだけど、生き方が強烈にかっこいいのです。

自分もそうありたいと思います。


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