ネットで話題になった「特殊清掃」という本がスゴい。自分に残された時間の希少性について考えるきっかけになった。

    

死んだらどうなるのか?哲学的な難題である。

「ゲームが終われば、キングもポーンも同じ箱に仕舞われる」

ポーン(Pawn)とはもちろんチェスの駒のポーンで、歩兵のこと。ネットで拾ったこの、人生になぞらえた名言に、なるほどと唸(うな)った記憶がある。

「特殊清掃」(特掃隊長/著、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン/刊)を読み終えて、ふとそんなことを思い出した。

「特殊清掃」(特掃隊長/著、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン/刊)

あたりまえだが人の身体は死ぬと遺体になって、いずれ変質、腐っていく。

夏場なら、2~3日で腐敗が進み、放置しておくと、強烈な臭いで隣人が騒ぎ出す。ウジが羽化して、辺りの窓ガラスに、真っ黒になるまで蝿がたかる。そんな最後を迎える人が現実にいる。考えたくもないけどね。

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特殊清掃が何かというのは、もう説明するまでもないだろう。

特殊というからには、普通の清掃ではない。誰もが躊躇するような現場に入り、見ず知らずの誰かの、物理的な後始末をするのだ。

アパートの一室、壁を見上げると打ち込まれた束状の釘。恐らく、用途を知ったら絶句する。ちょうど真下の床には生々しい汚染跡。想像するに、並み大抵ではない。

奇しくもこの記事を書き始めてから、人が亡くなる瞬間に立ち会うことになった。ベッドに横たわったその人は最後の瞬間、喉がゆっくりと一回動き、目の前で息を引き取った。

呼吸停止という状態である。

生気がないという言葉を日常で見かけるが、ほんとうに生気が失われた直後の状態というものは、見た者に圧倒的なリアリティをもって迫ってくる。角膜は薄っすらと濁り始め、皮膚は無機質な黄色になっていく。

故人が寂しくないようにと、何もない部屋でご遺体と2人っきりで過ごすことになった。慣れというものはやはりあって、怖いとかそういう感情はまったくなく、ただ、そこに居るだけ。生前の故人に思いを馳せることはあっても、すぐに何も考えなくなる。

ほどなくして、医師が死亡の診断を下し、正式に”死んだ”ということになった。

「ご苦労さまでした、もういいいですよ」

生の終わりというものは、実にあっけないもので、さっきまで温かった身体はどこか他人事のように、ひんやりと冷たかった。

後ろを振り返って、ぽつんとあるご遺体に目をやった時、 ぼくが普段、忘れていた(忘れようとしていた)、死の持つ虚無感というものが頭をよぎった。



死がゴールだとすると、誰もが生まれた瞬間からゴールに向かって進んでる。

ゴールの先は”無”で、いったんゴールした人の現象的意識はもう戻ってこない。幸せだった過去も、辛かった思い出も、いままで歩んできた過去すべてが無に帰すということで、こればかりは自覚できる当の本人がこの世に存在しないのだからしょうがない。

マラソンのゴールには達成感があって嬉しいが、これは違う。これほど想像するに嬉しくないゴールって何なんだろう。マラソンのゴールにはまだ、先っぽがあるのに対して、生きることのゴール、言い換えると”死”は、チョキンと切リ取られたままで先がない。

死ねばおしまい、ただそれだけのことだ。どこで”チョキン”となるかはわからない。となると、生きていることに本質的な意味なんてないと感じてしまう。

客観的にみてみるとなんとも空しくなるが、そういうものなのかもしれない。

誰に頼まれたのでもなく、生まれ、それでも生きている限り、生きなければならない。

こうしているいまも、自分は死に向かって進んでいて、そういうことに目をやると、残された時間の希少性というものに気付けるのではないかなぁと、本を読み終えてそんなことを思った。

あとがき

こんな文章を書くと、まるで自殺願望を持っているように思われるかもしれない。だけど、そうではないんだ。ぼくだって、このニヒリズム、ほどほどにしておかないと、世界が灰色に染まってしまうことくらいわかる。

こうやって、ときに”死”というものについて思い起こすことは、リセットのきかない人生について、その質を高めようとする前向きな姿勢なのではないかと思うわけ。

人は
ただ一度の人生を
死の観念で
引き締める

子どもの難問

現代社会は「死」というものを特別として、とくに強く日常から分けた。だから鈍感になってしまっているだけで、本来は特別でもなんでもない。といっても、ここで言っているのは、他人の死に触れ、”自分がいま生きている”という幸福感を高めようということでもない。

さて、終わりになるが、生きることにゴールがなかったらどうなんだろう、なんてバカなこと考えてみたりもした。

不老不死、死ねない身体。終わりのない未来。読み物のストーリーとしては面白そうなんだけど、現実にあてはめると、それはそれで退屈そうだ。

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